5名の元首相宛ての書簡について
5名の元首相が欧州委員長に宛てた書簡(2022年1月27日付け)について、私の書簡(2022年2月1日付け)で指摘したのは、5名の元首相による上記書簡が、「福島第一原発の事故」による「福島での未曽有の悲劇と汚染」の例示として「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と記載していることについて、「福島第一原発の事故」と関連付けて「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と記載することが、「差別や偏見につながるおそれがある」ことです。このことは容易に理解頂けるのではないでしょうか。
福島県が実施している甲状腺検査により見つかった甲状腺がんについては、国内外の専門家会議により、現時点では放射線の影響とは考えにくいという評価がなされています。
「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の2013年福島原発事故報告書は、福島第一原発事故後の甲状腺吸収線量がチェルノブイリ事故後の線量よりも大幅に低いため、福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように多数の放射線誘発性甲状腺がんが発生するというように考える必要はない、とした後、同委員会の2020年報告書では、見直された公衆の線量はUNSCEAR2013報告書と比較して減少、または同程度であり、放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにないと引き続きみなす、と記すとともに、被ばくした子供たちの間で甲状腺がんの検出数が大きく増加している原因は放射線被ばくではなく、高感度もしくは高精度な超音波スクリーニングがもたらした結果である、としています。
また、福島県「県民健康調査」検討委員会の中間とりまとめ(2016年3月)は、これまでに発見された甲状腺がんについては、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい、とした後、福島県「県民健康調査」検討委員会における本格検査(検査2回目)に対する評価の概要(2019年7月)では、福島県「県民健康調査」検討委員会の下に設置している甲状腺検査評価部会において「現時点において本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」とまとめられ、検討委員会にてこの報告が了承された、としています。 なお、環境省では、福島県の子供たちの気持ちに寄り添うべく、放射線の健康影響に関する差別・偏見の払拭に取り組むとともに、甲状腺検査の対象者やご家族の多様な不安に応えるため、例えば二次検査を受ける方へのこころのサポートの実施体制を強化する事業などを行っています。今後とも、こうした取組を進めていきます。
(了)